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『フレドリック・ブラウンSF短編全集1 星ねずみ』(フレドリック・ブラウン:著、安原和見:翻訳) [読書(SF)]

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 かつて、SFはマイナーなジャンルであった。そして、SFの仲間を増やしたいと思って、友人や知人にSFを読ませようとしたことがある。そのときに選んだのはフレドリック・ブラウンだった。そしてほぼ全員が面白かったと言ってくれた。だが、SFファンになってくれた人間は一人もいなかった。何故だ? そう思ったのだが、今なら理由がわかる。かれらが面白いと思ったのはSFではなく、フレドリック・ブラウンだったのだ。そんな当たり前のことに気がついてからは、SFファンを増やすという無駄な努力はやめた。フレドリック・ブラウンという素晴らしい作家を紹介できただけで十分ではないか。
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単行本p.342


 奇想天外なアイデア、巧妙なプロット、意外なオチ。短編の名手、フレドリック・ブラウンのSF短編を発表年代順に収録した全集、その第一巻。『星ねずみ』『天使ミミズ』など1941年から1944年に発表された初期作品が収録されています。単行本(東京創元社)出版は2019年7月、Kindle版配信は2019年7月です。


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 この〈フレドリック・ブラウンSF短編全集〉は作品の発表年代順に編集されている。つまりこの第一巻はフレドリック・ブラウンの初期、1941年から1944年の作品が収められているわけだ。80年も前の作品なんて、歴史的な意味しかないと思うかも知れないが、読めば、驚くよ。古くない。この十年ほどの間に書かれたものと言われても、納得するだろう。
 考えてみれば、わたしがフレドリック・ブラウンを読んでいた頃には、発表年代など、考えてもいなかった。その意味では、それを意識して読んだのはこれが初めてのことだった。デビューした時点で、フレドリック・ブラウンは既に完成していたのだ。これは驚くべき民権だった。
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単行本p.339


 子どもの頃、繰り返し繰り返し飽きずに読み返したフレドリック・ブラウンのSF短編。今でもアイデアからオチまですべて憶えているというのも凄いことだけど、それでも今読んでやっぱり面白い、というのが素晴らしい。

 人工知能の偏見学習、仮想現実の不具合、フェイクニュースや憎悪煽動による混乱、といった現代的な問題も、すべて80年も前にブラウンが核心のところを書いていたような気がしてなりません。


[収録作品]

『最後の決戦』
『いまだ終末にあらず』
『エタオイン・シュルドゥル』
『星ねずみ』
『最後の恐竜』
『新入り』
『天使ミミズ』
『帽子の手品』
『ギーゼンスタック一家』
『白昼の悪夢』
『パラドックスと恐竜』
『イヤリングの神』


『エタオイン・シュルドゥル』
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 そしてこういう機械的な作業をするうちに、ジョージが言うには、はっきり気がついたんだそうだ。もうライノタイプがジョージのために働いているんじゃない。ジョージのほうがライノタイプのために働いているのだ。なぜあれが活字を組みたがるのかはわからないが、それはたぶんどうでもいいんだろう。なんといったって、あいつはそのために存在しているんだから、たぶんそれが本能なのだ。
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単行本p.49


 活字を組んで印刷するライノタイプに意識がやどり、勝手に動き始める。最初は楽が出来ると喜んでいた印刷職人も、次第に要求を強めてゆく印刷機に恐怖をおぼえる。危険なので停止させようとしたときには、既に手遅れだった……。

 知能を持った機械の反乱、という古めかしいテーマを鋳植機でやるという奇想天外な作品。ちなみに2019年7月現在、ウィキペディアの「ライノタイプ」の項には「この装置に関しては、作家のフレドリック・ブラウンがしばしば、短編中に登場させている。たとえば、"ETAOIN SHRDLU"があげられる」と書かれています。


『星ねずみ』
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 しかし、どんなに練りに練った計画でも、狂うことはあるものだ――ねずみだろうと人間だろうと、全知全能の神ではないのだから。たとえそれが星ねずみであってもだ。
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単行本p.63


 老科学者が、ミツキーマウスと名付けられた一匹のネズミを乗せたロケットを打ち上げる。異星人とコンタクトし、知能を高められたミツキーは、真っ赤なズボンに黄色い靴と手袋という格好で地球に帰還する。彼は星ねずみ、スターマウスとなったのだった。

 初期ディズニー短編アニメというか、カトゥーン的な動物寓話ですが、大人になって読んでも、やっぱりわくわくして、最後はしんみりするんですよね。


『天使ミミズ』
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 目をしっかりつぶったまま考えた。
 どこかに答えがあるはずだ。
 答えなんかどこにもない。
 天使のようなミミズ。
 熱波。
 硬貨の展示ケースのなかのカモ。
 趣味の悪いしおれた花輪。
 入口のエーテル。
 関連を見つけろ。かならず関連性があるはずだ。意味があるはずだ。ないはずがあるものか!
 すべてに共通するなにか。すべてをつなぐなにか、すべてを結びつけて意味のあるまとまりにしているもの。理解できるもの、そしてなんとか手を打てる――戦うことのできるもの。
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単行本p.165


 羽根が生え、後光がさし、天に昇ってゆくミミズ。それがすべての始まりだった。意味不明、予測不能、何が起きるか分からない。謎の超常現象に次々と遭遇する語り手は、狂気のふちまで追いつめられるが……。

 フレドリック・ブラウンの最高傑作のひとつ。魅力的な謎、高まるサスペンス、予想外の回答と対処法。すべて知っていて読み返しても、そのサスペンスから解決に持ってゆくプロットに感心します。


『白昼の悪夢』
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 せめてなにか手がかりでもあれば。ワイルダー・ウィリアムズも、手がかりがふたつの遺体――それも同一人物の遺体だ――しかないような、こんな事件を扱ったことはあるまい。しかもうち一体は五種類の方法で殺されていて、もう一体には傷もなければ暴力の痕跡すらない。なんというでたらめ。ここからどう捜査を進めればいいというのか。
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単行本p.252


 ある者は心臓を撃ち抜かれていたと証言し、別の者は首が胴体から切り離されていたと証言する。頭が割られてきた、焼き殺されていた。目撃者によってばらばらな死因。さらに新たな遺体が出てくるが、それは先ほどの事件の被害者と同一人物だった。いったい何が起きているのか。混乱する捜査官は、次第に悪夢にとらわれてゆく……。現実崩壊感といえばディックですが、この作品のそれもかなり強烈です。



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