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『じゃじゃ馬にさせといて』(松田青子) [読書(随筆)]

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 書いた人のジェンダーバイアスや偏見を感じる場合はもちろん嫌だけど、「女性」という言葉が目印となって、自分が必要とする作品に出会えたケースもたくさんある。だから、このエッセイ集でもそうだけど、私も「女性」とわざわざ書くことが少なくない。私が「女性」と書く時は、ここに女性がつくった素晴らしい作品があって、きっとあなたも必要としていると思います!と熱い気持ちでいる私を思い浮かべてください。言うまでもないことですが、この「あなた」は女性だけに限りません。
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単行本p.10


 好きなものをみて、好きなものを着て、好きなものを食べて、好きなところに出かけてゆく。女が好きなように生きてなにが悪い。映画、ドラマ、フェミニズムの話題を中心に、自分が好きなものを世界に向かって全身全霊で叫ぶような痛快エッセイ集。単行本(新潮社)出版は2019年6月です。


 前作『ロマンティックあげない』に続く第三エッセイ集です。前作の最後のエッセイ「テイラー・スウィフト再び」のさらにその後が気になっていた読者のために、ちゃんと「テイラー・スウィフトの帰還」が本書には収録されています。

 ちなみに前作の紹介はこちら。


  2016年08月04日の日記
  『ロマンティックあげない』
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-04


 とにかく好きな映画やドラマを絶賛しまくるエッセイが多く、その手放し有頂天感が素敵。もちろん不快なジェンダーバイアスを感じるような作品は皆無なので、どなたでも安心してその好き好きオーヴァードライブに乗ることが出来ます。


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 出てくる人たちがみんな風変わりで、愛おしい。恋愛要素の展開もいちいちチャーミングで、私に世の作品の中からベストキス賞やベストウエディング賞を選ばせたら、このドラマがぶっちぎりで優勝だ。バレンタインデーの前日に女性同士で称え合うギャレンタインズデーや、自分を徹底的に甘やかす Treat Yo Self の日など、面白いところを般若心経のようにひたすら書き出したいくらいだ。
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単行本p.60


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 仕事を頑張っている女性のことを周囲の人間はどう思い、どうサポートするべきか、デ・ニーロが一から十まで体現してくれるという、フェミニズムの教科書みたいな作品でびっくりした。私にもこのデ・ニーロください。すべての職場にこのデ・ニーロを設置してください。この映画を見ないと社会に出られないシステムにしてください。
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単行本p.66


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 メカ担当のホルツマン役として、多くの観客のハートを撃ち抜いたケイトは全編にわたり発光していた。ホルツマンがスイスアーミーナイフを手渡しながら、「女は丸腰で外出すると危ない」というので、私もすぐに買いました。ホルツマンの言うことは絶対。
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単行本p.79


 「般若心経のようにひたすら書き出したい」「私にもこのデ・ニーロください」「ホルツマンの言うことは絶対」など、何か作品を絶賛するときに使える日本語表現を学ぶことが出来ます。


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 それ以来、当たり前のことだが、彼のSNS関係はすべて把握し、日々監視していた。アイフォンに世界時差時計のアプリを入れ、クリスがツアーで移動しても、彼は今何時の世界を生きているのかすぐさまわかるようにした。彼が誰かの写真にイイネ!をつけているのを見るだけで、胸の内に喜びが涌き上がった。特に、2014年の日本ツアーでだけクリスの相手役として白鳥役を踊ったマルセロ・ゴメスとSNS上で交流しているのを見ると、本当に幸せな気分になった。こんなに絶望的に美しいカップリングには、多分もう二度とお目にかかることはないだろう。ありがとう、クリスとゴメス。あなたたちのパ・ド・ドゥを胸に、私、生きる!
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単行本p.29


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 映画は熱量と緊張感が半端なく、見終わった後、またふらふらと次の回のチケットを買いそうになったくらいだった。なんとか気持ちを落ち着かせ、映画館の階段を下りながら、私は今、キリアン落ちしたな、とわかった。彼は渋さの権化のようなかっこよさだった。なぜ今まで素通りできていたのか、心底自分がわからなくなった。(中略)正直、どんなシーンもキリアンに見惚れているうちに過ぎてゆく。この原稿を書こうとして、鑑賞時の自分のメモを確認したのだが、「キリアンかっこいい」「話がどうなろうとキリアンかっこいい」みたいなことしか書いていなかった。(中略)最近は、自分が天に召される時は、死神がキリアンの姿をしていたらいいのにと考えている。
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単行本p.98、99、100


 「あなたたちのパ・ド・ドゥを胸に、私、生きる!」「死神がキリアンの姿をしていたらいいのに」など、誰かの尊さについて表現したいときに使える日本語表現を学ぶことが出来ます。


 愛や尊さだけでなく、女性差別や人種差別に関する怒りが書かれたエッセイも、もちろんあります。その怒りは「好きなものを愛でながら自由に生きたい」という凶暴なまでの情熱と一体化して、読者の胸を打つのです。

 どう生きるか、何をすべきか、何を誰を好きになるべきか、そんなことを他人にとやかく指示されたりジャッジされたりしたくない。好きなものを愛でて好きなように生きてゆきたい。そうする権利を奪われたくない。そう思っている人は、性別に関係なく、フェミニストになればいいのだ、と教えてくれる一冊です。


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 五感をフル稼働させて一瞬一瞬を味わいつくしているように見えるエリオの一つ一つの表情や動きを見ていると、人類は本来みなエリオであり、いつだってエリオになる権利があるんだ、私たちはみなエリオなんだ、という熱い気持ちが湧き上がってきた。
 そういうわけで、その夏、私の住んでいる街は「北イタリアのどこか」であり、私はエリオだった。毎日泳げるような場所も近くになく、外に出るとまごうことなき日本の風景が目に飛び込んできたが、サウンドトラックをリピートすることで何とかしのいでいた。私もがんばるので、みんなもおのおのがインナー・シャラメを全開にして、夏を毎年エンジョイしてほしい。われわれにはその使命がある。エリオの名にかけて。
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単行本p.130



タグ:松田青子
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