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『皮膚はすごい 生き物たちの驚くべき進化』(傳田光洋) [読書(サイエンス)]

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 ケラチノサイトを眺めていると、私たちのからだの表面を覆っている表皮、それを形作っているケラチノサイトの一つ一つに意思や気分があるように思えてきます。
 それがきっかけで、私は人間のケラチノサイトの性質をいろいろ調べ始めました。そこで気づいたのは、私たち人間の皮膚、特に表皮が、すごい能力を持っていることでした。外からの刺激を感じたり、感じて興奮したり形を変えたり、さらには全身や脳にも「命令」を発しています。
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 私たちの身体を覆っている最強のバリア、皮膚。だが皮膚が持っている機能はそれだけではないらしい。外界からの様々な情報をセンサとして受信し、情報処理を行い、脳や臓器と連携する。皮膚が持っている驚くべき機能について専門家が分かりやすく紹介してくれるサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2019年6月です。


[目次]

1.人間だけじゃない!
2.皮膚は最強のバリアだ!
3.皮膚は生まれ変わる?
4.植物だって「皮膚」でできている
5.なんといっても皮膚は防御
6.極限環境のなかでも平気な皮膚
7.驚くべき進化を遂げた皮膚
8.コミュニケーションする皮膚
9.人間の皮膚を再考する
10.家を出た人間


1.人間だけじゃない!
2.皮膚は最強のバリアだ!
3.皮膚は生まれ変わる?
4.植物だって「皮膚」でできている
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 人間の皮膚やトマトの皮の表面は死んだ細胞が重なってできていますが、ゾウリムシの皮膚は生きています。それはゾウリムシが一つの細胞からできている生き物だからです。しかし、人間もトマトもゾウリムシも、からだと外部との境界を作ります。そしてからだの中を外部環境の変化から守り、生き続けるために、その境界は大きな役割を持っているのです。そういう意味での皮膚は、あらゆる生物が持っています。
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単行本p.2


 皮膚に関する基礎知識から始まって、カエルのスキンケア、節足動物の脱皮、皮膚呼吸する植物など、様々な生物において「皮膚」が果たしている幅広い役割を紹介してゆきます。


5.なんといっても皮膚は防御
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 表皮のケラチノサイトが作るもう一つの防御機能が、なんと外から皮膚にくっつき入り込んでくる菌を殺す抗菌物質なのです。正確にいうと、抗菌作用を持ったタンパク質で、そんなものまでケラチノサイトは作ります。
 面白いことに、角層の防御機能と、ケラチノサイトが作りだす抗菌物質の防御機能はうまく連携しています。角層のバリア機能、からだから水を逃がさない役目があると前に述べましたが、同時に有害な菌やアレルギーの原因、抗原をからだの中に入れない役割も果たしています。角層が壊れると、ケラチノサイトが合成する抗菌物質が多くなるのです。
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単行本p.45、


 カバの赤い汗、猛毒を作りだす鳥の皮膚、果物の「傷口」が腐る理由。抗菌物質や免疫システムなど皮膚が持っているアクティブな防御機能を紹介します。


6.極限環境のなかでも平気な皮膚
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 その後の研究で、予想通り、いくつかの「不凍タンパク質」が発見されました。そのタンパク質があるヒラメの皮膚や臓器は、氷点下でも凍らないのです。
(中略)
 どうして、そのタンパク質が表皮の凍結を防ぐのかはわかっていません。ただ水が凍る、結晶になる物理現象そのものが、まだ明らかになっていないのです。実は、私の大学院時代の研究が水の物理化学でした。そのあとも、水の研究の話題には興味があったのですが、知り合いの水の研究者に尋ねても、この30年以上、進展はないようです。むしろ、このヒラメのタンパク質を研究すれば、水の謎が解けるかもしれません。
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単行本p.65、66


 気温が極端に高かったり低かったりする環境に適応するために、皮膚が果たしている体温調整機能を紹介します。


7.驚くべき進化を遂げた皮膚
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 エレファントノーズフィッシュという名前の、確かにゾウの鼻のような口先をした魚がいます。ナイル川などに棲んでいます。この魚、泥の中で獲物を探したり、障害物を避けたりするため、なんと電気的なレーダー機能を持っているのです。尻尾に発電器があって、体の周りに電場を作ります。そこに生き物が近づいたり、障害物があると、全身の表皮のセンサーで感知します。この魚の口先からしっぽまで皮膚表面に小さな電気センサーがびっしりあるので、電場の異常の場所がわかります。
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単行本p.72


 高速で泳ぐための皮膚、電気レーダーを装備した皮膚、捕食する皮膚、分裂して増殖する皮膚など、様々な生物種が進化によって身につけた皮膚の特殊能力を紹介します。


8.コミュニケーションする皮膚
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 こんなふうにとても面白いコウイカですが、よく考えると、凄い能力です。まず自分が今いる場所の色合い、砂地とか、岩場であるとか、変わった色合いをしているかだとか、一瞬に判断しなければなりません。近づいてくるのがオスかメスか別種の生き物か、オス同士の場合、自分よりエライ奴かそうでないか、そんな判断も必要です。そして判断したらすぐ、全身の皮膚の色、というより模様を変えなければなりません。とても優れた情報処理能力を持っているはずです。
 最近、その機能をコンピュータシミュレーションで表現する研究が発表されましたが、その結論の一つとして、コウイカの脳、神経系と皮膚の間には、未知の極めて速い情報伝達システムが存在することが挙げられています。コウイカの研究は情報工学にも何らかのヒントをもたらすかもしれません。
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単行本p.88


 保護色、威嚇色、ディスプレイなど、捕食者や異性に対するコミュニケーションを果たしている皮膚機能を紹介します。



9.人間の皮膚を再考する
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 帰国して化粧品会社の研究員に戻ってから、ダメージを受けた角層の修復を速くする方法を探し始めました。すると、電場、適切な温度、可視光、音波にいたるまでがバリア回復機能に作用することを発見しました。このことは、すなわち表皮を構成する細胞、ケラチノサイトに、そういう刺激を感知する機能があるということです。
(中略)
 これらのケラチノサイトの受容体が、バリア機能以外の何かの役割を担っているのかどうかは、まだわかっていません。ただ、ある神経科学者の研究で、指先に、いろんな形のものを押し付けると、その形によって、異なる神経応答が前腕の神経で観察されました。つまり尖ったもの、丸いもの、三角のもの、四角のものに指が触れると、指先と腕の神経の間のどこかで、その形を識別する情報処理がなされているということです。
 私は、その情報処理も表皮で行われていると想像しています。形を識別すること、難しく言うと空間的な情報を獲得すること、これが指先から腕の神経の間でできうるのは表皮だけだからです。
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単行本p.93、100


 五感すべてを検知する感覚機能、さらに脳の情報処理システムと連携する独自の情報処理システムを備えているらしい皮膚。人間の皮膚が持っている未知の機能を探る最先端の研究成果を紹介します。


10.家を出た人間
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 ここで、高機能の表皮を持った動物を思い出してみましょう。全身の表皮に電気レーダーを持っている魚エレファントノーズフィッシュ。全身の表皮でさまざまなディスプレイを行うコウイカ。どちらも大きな脳を持っています。つまり高機能の表皮を持つと大きな脳が要るのです。
(中略)
 前に述べたさまざまな危険には音波、電場、光などの現象が付随します。それを耳や目が感知する前に、表皮が感知し、より速い対応ができたので、体毛の薄い先祖は生き延びる確率が高かったのではないでしょうか。そして表皮からもたらされる膨大な情報を有効に活用するために大きな脳が必要になったと考えられます。
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単行本p.106、107


 体毛を失うとともに大きな脳を持つようになった人類。その進化の原動力となったのは、私たちの皮膚が持っている様々なセンサ機能および情報処理機能ではなかっただろうか。皮膚の特異性が人間を作った、さらに文明の発達にも皮膚が大きな役割を果たしてきた、という大胆な仮説をもとに思索してゆきます。



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