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『NOVA 2019年秋号』(大森望:編集) [読書(SF)]

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中身がめちゃくちゃ? 辻褄が合わない? いいんだよ、これはSFなんだから。SFってのはめちゃくちゃで辻褄が合わないもんだろ。
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収録作『宇宙サメ戦争』(田中啓文)より 文庫版p.158


 小さなSF専門誌になって帰ってきた新生《NOVA》。科学考証とか気にもしない現代SFのトップランナーたちが書き下ろす日本SFアンソロジーNOVA、その第3シーズン2冊目です。文庫版(河出書房新社)出版は2019年8月です。


[収録作品]

『夢見』(谷山浩子)
『浜辺の歌』(高野史緒)
『あざらしが丘』(高山羽根子)
『宇宙サメ戦争』(田中啓文)
『無積の船』(麦原遼)
『赤羽二十四時』(アマサワトキオ)
『破れたリンカーンの肖像』(藤井太洋)
『いつでも、どこでも、永遠に。』(草野原々)
『戯曲 中空のぶどう』(津原泰水)




『あざらしが丘』(高山羽根子)
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 捕鯨のイメージアップアイドルグループに捕鯨をさせる/日本初の捕鯨アイドルユニット、というフックは話題性においてこの上なく強力だったというのが大きい。彼女たちはその後しばらく楽曲発表を続けながら、一年に二回の捕鯨活動を行った。大きな野外ステージを湾岸に作って『ライブ』と呼称し、捕鯨の様子をエンターテインメントにして配信する。そこに照準を合わせた活動にシフトチェンジをした。
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文庫版p.92


 日本の商業捕鯨をアピールするために結成された女子アイドルグループ。今では捕鯨そのもの、すなわち捕鯨「ライブ」による集客と配信が主要な活動となっていた。捕鯨アイドルグループ「あざらしが丘」の捕鯨ライブのバックステージを描いた擬似イベントテーマSF。




『宇宙サメ戦争』(田中啓文)
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 これはサメ類最初の試みとして五年間の調査飛行に飛び立った宇宙船U.S.Sマンタープライズ号の驚異に満ちた物語である。

「シャーク船長」(中略)
「どうした、ミスター・シュモック」
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文庫版p.112


 サメ類最初の試みとして五年間の調査飛行に飛び立った宇宙船U.S.Sマンタープライズ号のキャプテン、ジェイムズ・シャークと副官ミスター・シュモックは、宇宙海賊キャプテン・シャークロックと対決する。言語道断問答無用のサメSF。




『赤羽二十四時』(アマサワトキオ)
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「何が起こってる!」とりゅうちぇるが叫んだ。
「当店はただいまセブン-イレブンを捕食中です!」とスリムは答えた。
 セブン店内から掻き出された大量の商品群が、ファミマ店内になだれ込む。スリムとぺこは骨格棚をバリケードにして身を守ったが、りゅうちぇるは散弾銃のようなセブン商品群の直撃を被った。缶飲料や缶詰などの商品が、りゅうちぇるの巨体をしたたかに打った。
 ようやっと傾斜が収まり、地面が水平に戻ると、その後コンビニはついに、のしのしと、セコイヤの大樹のような二本の足を交互に動かして歩き始めた。無数の触手が獰猛に踊り狂い、店の行く手を塞ぐビルを蹂躙する。団地が闇に飲まれ、首都高が細切れになる。破壊の振動が街と店内を震撼させる。行く手には光が密集している。赤羽駅周辺エリア――繁華街だ。
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文庫版p.238


 ファミリーマート赤羽西六丁目店が、野生に目覚める。もともと離島で捕獲された野生店舗を調教して運用していたコンビニがついに立ち上がり、咆哮をあげ、触手でセブン-イレブンを捕食しながら移動を開始したのだ。破壊される赤羽。たまたま店内にいたバイトとコンビニ強盗コンビの三人は、暴走するファミマを抑えられるか。疾風怒濤のコンビニSF。




『破れたリンカーンの肖像』(藤井太洋)
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 ヨーロッパの加速器で、時間旅行効果が認められたというニュースは、わずかに記憶していた。確か、加速器のアインシュタイン効果で延命したワームホールにエックス線を当てたら、一週間後ほど遡った時間に照射することができた――そんな話だっただろうか。
「つまり、ハインツさんたちはあの研究の成果を発展させて、五ドル札を未来から送り込んできた、と言いたいわけなんだな。いやたいしたもんだ」
 言いながらフォークの口調はぞんざいなものになっていった。
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文庫版p.284


 どんなに精密検査しても見分けのつかない二枚の「本物」の五ドル札。その謎を追う若き日のフォーク・ドミトリは、未来から過去に五ドル札を送った、と主張する男に出会う。ワームホール型タイムマシンを駆使した『ノー・パラドクス』(『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ バベル』収録)の前日譚で、ミステリ的な落ち着いた導入部からの多段式ロケット的な飛躍がものすごい時間テーマSF。



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『SFマガジン2019年10月号 神林長平デビュー40周年記念特集/ジーン・ウルフ追悼特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2019年10月号の特集は「神林長平デビュー40周年記念特集」および「ジーン・ウルフ追悼特集」でした。


『ユニコーンが愛した女』(ジーン・ウルフ:著、柳下毅一郎:翻訳)
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 キャンパスの西はじ、駐車場は町の中心からうなり声をあげて流れる鋼鉄とゴムの川を送りだす。向こう岸には香りよい松並木。そこをユニコーンが走っている。ときに陰になり、ときに疎らな芝を踏み。短い芝の隣には短く泥混じりの砂利が敷かれ、その隣はコンクリートだ。そのときちょうどアンダーソンは目をあげ、オフィスの窓からユニコーンを見た。
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SFマガジン2019年10月号p.179


 大学のキャンパスに現れた一頭のユニコーン。それを匿った学生と神話保護協会員の冒険をえがく作品。


『浜辺のキャビン』(ジーン・ウルフ:著、村上博基:翻訳)
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 もうひとつの窓へ行ってみた。あの船がいた。だいぶ近い距離で、遺棄船のように波に揺れていた。不格好な煙突から煙は出ず、帆も張られていないが、索具からいくつか黒っぽい旗が垂れていた。と、つぎの瞬間、もう船影はなくて、輪をえがくカモメと、空漠たる海があるばかりだった。声に出して彼女の名を呼んでみたが、こたえる者はなかった。
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SFマガジン2019年10月号p.198


 浜辺で恋人が行方不明になる。沖にはいかにも怪しい幽霊船。意を決した男は、泳いで幻の船に向かうが……。「妖精による誘拐」という伝説を現代風に扱った作品。


『太陽を釣り針にかけた少年』(ジーン・ウルフ:著、中村融:翻訳)
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 八日目、ひとりの少年が釣り糸を海に投じた。八日目の太陽はちょうど昇るところで、幅広い、のっぺらぼうの自分の顔からアトランティスの荒れた海辺――そこでは突出したエメラルドの上に少年がすわっている――まではるばる黄金の道を走らせていた。当時の太陽はいまよりずっと若く、人間の流儀に対処する賢さをいまほど持ちあわせていなかった。それは餌に食いついた。
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SFマガジン2019年10月号p.205


 むかしむかし、アトランティスの少年が、太陽を釣り上げようとした。神話伝承のフォーマットを駆使した作品。


『金色の都、遠くにありて〈前篇〉』(ジーン・ウルフ:著、酒井昭伸:翻訳)
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 そこは美しい場所だった。高くそびえているのは、さまざまな大きさと形の、数かぎりない金の塔だ。どの塔にも旗が翻っている。黄色い旗、紫の旗、青の旗、緑の旗、白の旗。
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SFマガジン2019年10月号p.209


 眠るたびに夢の続きを見る少年。夢の中で、彼は遠くに見える金色の都を目指して歩いている。現実で出会った人や犬が夢の中に現れ、夢の中で起きた出来事は現実を変えてゆく。夢と現の区別が次第に曖昧になってゆく幻想的な作品。〈後篇〉の掲載は次号とのこと。



タグ:SFマガジン
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『フレドリック・ブラウンSF短編全集1 星ねずみ』(フレドリック・ブラウン:著、安原和見:翻訳) [読書(SF)]

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 かつて、SFはマイナーなジャンルであった。そして、SFの仲間を増やしたいと思って、友人や知人にSFを読ませようとしたことがある。そのときに選んだのはフレドリック・ブラウンだった。そしてほぼ全員が面白かったと言ってくれた。だが、SFファンになってくれた人間は一人もいなかった。何故だ? そう思ったのだが、今なら理由がわかる。かれらが面白いと思ったのはSFではなく、フレドリック・ブラウンだったのだ。そんな当たり前のことに気がついてからは、SFファンを増やすという無駄な努力はやめた。フレドリック・ブラウンという素晴らしい作家を紹介できただけで十分ではないか。
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単行本p.342


 奇想天外なアイデア、巧妙なプロット、意外なオチ。短編の名手、フレドリック・ブラウンのSF短編を発表年代順に収録した全集、その第一巻。『星ねずみ』『天使ミミズ』など1941年から1944年に発表された初期作品が収録されています。単行本(東京創元社)出版は2019年7月、Kindle版配信は2019年7月です。


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 この〈フレドリック・ブラウンSF短編全集〉は作品の発表年代順に編集されている。つまりこの第一巻はフレドリック・ブラウンの初期、1941年から1944年の作品が収められているわけだ。80年も前の作品なんて、歴史的な意味しかないと思うかも知れないが、読めば、驚くよ。古くない。この十年ほどの間に書かれたものと言われても、納得するだろう。
 考えてみれば、わたしがフレドリック・ブラウンを読んでいた頃には、発表年代など、考えてもいなかった。その意味では、それを意識して読んだのはこれが初めてのことだった。デビューした時点で、フレドリック・ブラウンは既に完成していたのだ。これは驚くべき民権だった。
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単行本p.339


 子どもの頃、繰り返し繰り返し飽きずに読み返したフレドリック・ブラウンのSF短編。今でもアイデアからオチまですべて憶えているというのも凄いことだけど、それでも今読んでやっぱり面白い、というのが素晴らしい。

 人工知能の偏見学習、仮想現実の不具合、フェイクニュースや憎悪煽動による混乱、といった現代的な問題も、すべて80年も前にブラウンが核心のところを書いていたような気がしてなりません。


[収録作品]

『最後の決戦』
『いまだ終末にあらず』
『エタオイン・シュルドゥル』
『星ねずみ』
『最後の恐竜』
『新入り』
『天使ミミズ』
『帽子の手品』
『ギーゼンスタック一家』
『白昼の悪夢』
『パラドックスと恐竜』
『イヤリングの神』


『エタオイン・シュルドゥル』
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 そしてこういう機械的な作業をするうちに、ジョージが言うには、はっきり気がついたんだそうだ。もうライノタイプがジョージのために働いているんじゃない。ジョージのほうがライノタイプのために働いているのだ。なぜあれが活字を組みたがるのかはわからないが、それはたぶんどうでもいいんだろう。なんといったって、あいつはそのために存在しているんだから、たぶんそれが本能なのだ。
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単行本p.49


 活字を組んで印刷するライノタイプに意識がやどり、勝手に動き始める。最初は楽が出来ると喜んでいた印刷職人も、次第に要求を強めてゆく印刷機に恐怖をおぼえる。危険なので停止させようとしたときには、既に手遅れだった……。

 知能を持った機械の反乱、という古めかしいテーマを鋳植機でやるという奇想天外な作品。ちなみに2019年7月現在、ウィキペディアの「ライノタイプ」の項には「この装置に関しては、作家のフレドリック・ブラウンがしばしば、短編中に登場させている。たとえば、"ETAOIN SHRDLU"があげられる」と書かれています。


『星ねずみ』
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 しかし、どんなに練りに練った計画でも、狂うことはあるものだ――ねずみだろうと人間だろうと、全知全能の神ではないのだから。たとえそれが星ねずみであってもだ。
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単行本p.63


 老科学者が、ミツキーマウスと名付けられた一匹のネズミを乗せたロケットを打ち上げる。異星人とコンタクトし、知能を高められたミツキーは、真っ赤なズボンに黄色い靴と手袋という格好で地球に帰還する。彼は星ねずみ、スターマウスとなったのだった。

 初期ディズニー短編アニメというか、カトゥーン的な動物寓話ですが、大人になって読んでも、やっぱりわくわくして、最後はしんみりするんですよね。


『天使ミミズ』
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 目をしっかりつぶったまま考えた。
 どこかに答えがあるはずだ。
 答えなんかどこにもない。
 天使のようなミミズ。
 熱波。
 硬貨の展示ケースのなかのカモ。
 趣味の悪いしおれた花輪。
 入口のエーテル。
 関連を見つけろ。かならず関連性があるはずだ。意味があるはずだ。ないはずがあるものか!
 すべてに共通するなにか。すべてをつなぐなにか、すべてを結びつけて意味のあるまとまりにしているもの。理解できるもの、そしてなんとか手を打てる――戦うことのできるもの。
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単行本p.165


 羽根が生え、後光がさし、天に昇ってゆくミミズ。それがすべての始まりだった。意味不明、予測不能、何が起きるか分からない。謎の超常現象に次々と遭遇する語り手は、狂気のふちまで追いつめられるが……。

 フレドリック・ブラウンの最高傑作のひとつ。魅力的な謎、高まるサスペンス、予想外の回答と対処法。すべて知っていて読み返しても、そのサスペンスから解決に持ってゆくプロットに感心します。


『白昼の悪夢』
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 せめてなにか手がかりでもあれば。ワイルダー・ウィリアムズも、手がかりがふたつの遺体――それも同一人物の遺体だ――しかないような、こんな事件を扱ったことはあるまい。しかもうち一体は五種類の方法で殺されていて、もう一体には傷もなければ暴力の痕跡すらない。なんというでたらめ。ここからどう捜査を進めればいいというのか。
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単行本p.252


 ある者は心臓を撃ち抜かれていたと証言し、別の者は首が胴体から切り離されていたと証言する。頭が割られてきた、焼き殺されていた。目撃者によってばらばらな死因。さらに新たな遺体が出てくるが、それは先ほどの事件の被害者と同一人物だった。いったい何が起きているのか。混乱する捜査官は、次第に悪夢にとらわれてゆく……。現実崩壊感といえばディックですが、この作品のそれもかなり強烈です。



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『SFマガジン2019年8月号 特集・『三体』と中国SF』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2019年8月号の特集は「『三体』と中国SF」でした。『三体』日本語版の出版にあわせて四篇の中国SF短篇が掲載されています。さらに、『サイバータンク vs メガジラス』の続編、『博物館惑星2・ルーキー』シリーズ最新作なども掲載されました。


『天図』(王晋康:著、上原かおり:翻訳)
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囲碁界に馬スターが現れたなら、物理学界でも、じきに驢スターが現れるさ、そいつも0と1のわけのわからない文字列で、trial and errorを力ずくで実行するマッチョなやつさ、でもすぐに全ての天才科学者を遥かに凌駕することだろうよ、そしていつの日か宇宙の究極の法則を発見するのさ、でも科学者たちには理解できないんだ、
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SFマガジン2019年8月号p.24


 究極の万物理論を頂点とするすべての物理学体系を階層的にまとめた見取り図、これすなわち天図なり。そこには未来の物理学の構造までが明示されていた。この天図を描いたという少年はいったい何者なのか。その正体に迫る科学者は、物理学に終焉がせまっていることに気づく。


『たゆたう生』(何夕:著、及川茜:翻訳)
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 純粋エネルギー生命の誕生からたった一万年で、正の世界と負の世界が極点に達するまでにはまだ百億年かかる。その後も、わたしたちは存在し続ける。教えて、それは希望か、それとも……絶望なの?
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SFマガジン2019年8月号p.41


 エントロピーが増大し続ける宇宙、エントロピーが減少し続ける宇宙、この二つが対となり、永遠に循環を続ける陰陽太極宇宙。両極にまたがって存在する不滅の純粋エネルギー生命となった鶯鶯と灰灰の二人は、一万年のときをこえ、太陽系で再会する。だがそのとき、地球は変わり果てた姿になっていた。


『南島の星空』(趙海虹:著、立原透耶:翻訳)
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 天と人を二つに隔てた状況というのはまさに彼の家庭のことだった。妻の天琴は環境保護の資材を普及させる仕事についており、時代が認める精鋭を保護する「時代精鋭保護計画」に選ばれ、十歳の娘・合鴿を連れて珍玉城に入り生活をしていた。しかし彼は社会から差し迫った必要のない人材であると見なされ、この貴重な割り当てにあずかる権利を得られず、珍玉城の外でスモッグを仲間に――無論マスクとともに――留まっていた。平安市の中ではすでに数えきれないほどの同様の家庭が生まれており、またこのことで多くの婚姻関係が破綻し、ひどい時には社会の関心を集めるホットな話題となった。
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SFマガジン2019年8月号p.49


 ますます悪化する大気汚染への対策として建てられた珍玉城。それは汚染物質を濾過し清浄な大気だけを取り込む特殊フィルターで覆われたドーム都市。選ばれた人材だけが珍玉城への居住を許され、無用な人間は汚染された外部にとり残される。天文学者である主人公は後者と見なされ、珍玉城への居住権を得た妻子と別れるはめに。星空を見上げることは「無用」な仕事ではないことを、彼は娘に伝えたいと願う。


『だれもがチャールズを愛していた』(宝樹:著、稲村文吾:翻訳)
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 重力感覚を同期――ぼくはどこかに立っている。
 触覚を同期――そよ風が吹きすぎ、春の暖かさと海の湿り気を運んでくる。
 聴覚を同期――風の音、流麗な鳥の声。
 視覚を同期――眼に飛びこんできた薄紅色と白色が、数えきれぬほどの桜の花へと姿をなして萌ゆる春に咲きほこり、木の下には和服を着た妙齢の女が端座している。眉目秀麗、笑窪の咲くその姿は蒼井みやび。
 そしてぼくはチャールズ、唯一無二のチャールズ。
――――
SFマガジン2019年8月号p.60


 自分が体験している全感覚を「配信」できるようになった時代。一番人気のスターはチャールズ、唯一無二のチャールズだった。彼の感覚配信の「視聴者」たちは、チャールズ自身に乗り移って華麗なるハーレム人生を送ることが出来るのだ。今も、愛子天皇との謁見予定をブッチして元人気AV女優の蒼井みやびとデートしているチャールズ、その体験を数多くの視聴者が共有している。

 自室でひきこもり生活をしている宅見直人は、できる限りの時間をチャールズと同期して過ごすことで「本当の人生」を送っていた。ぼく三次元には興味ありません。隣に住んでいる幼なじみの朝倉南は、そんな宅見に「自分の人生」を取り戻させようと色々がんばるのだが……。


『子連れ戦車』(ティモシー・J・ゴーン:著、酒井昭伸:翻訳)
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 とうとう新生サイバータンクの装甲に付属する外部スピーカーが作動した。そこから出てきた第一声は――。
「みぎゃー」
 ふたたび、沈黙。われわれはもっとしゃべらせようと働きかけ、どうにか第二声を引きだすことができた。その声も――。
「みぎゃー」
 ここにいたって、われわれは悟った。どこかでなにかをまちがえたのだ。
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SFマガジン2019年8月号p.249


 巨大トカゲ型放射能怪獣メガジラスとの戦いを生き延びたサイバータンクに、子供をつくる許可がおりる。だが、産まれた子供は「みぎゃー」と泣くばかりのできんボーイだった。失意のまま小惑星を彷徨う子連れサイバータンク。我ら親子、既に冥府魔道を歩んでおる。だがそこに(みんなの期待通り)敵襲が。

 SFマガジン2018年2月号に掲載された『サイバータンク vs メガジラス』の続編。翻訳者コメント「田村信先生、ごめんなさい」。


『博物館惑星2・ルーキー 第八話 にせもの』(菅浩江)
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「本物が持つ力は人間の勘が感知する。形や色を模しただけの複製品に、その気迫は感じられないのよ」
「でもさ、ベテラン学芸員であるネネさんの勘ですら、あの壺は」
 最後まで言いきることができなかった。
 尚美が、怒りを通り越して涙目になっていたからだ。誇りを持って赴任した〈アフロディーテ〉が貶められ、敬愛する大先輩があの贋作を見分けられなくても仕方がないと負けを認めた。勝ち気な新人学芸員にとっては、泣くほど悔しいことなのだ。
――――
SFマガジン2019年6月号p.328


 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。そこに保管されていた壺に、贋作の疑いがかかる。もしそうならアフロディーテの学芸員たちの面子まるつぶれ。ことの真偽を確認するために地球から運ばれてきた壺との比較が行われるが、その背後では美術品専門詐欺組織のプロが暗躍していた……。

 若き警備担当者が活躍する『永遠の森』新シリーズ最新作。


『エアーマン』(草上仁)
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 故人は、稀代のエア・アーティストだった。彼には何でもできた。自らの身体だけを使って、森羅万象を表現することができたのだ。(中略)どんな演奏でも、スポーツでも、その他の技芸でも、故人は本物のマスターやチャンピオンになれたろう。人々はそう評した。しかし彼は、エアーマンであることにこだわった。彼は何でもできた。しかし、実際には何もしなかった。何もしないで、何かをしているふりをすることが、彼の宿命だったのだ。
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SFマガジン2019年8月号p.356


 稀代のエア・アーティストが死んだ。エアギター演奏、一人でシャドウと闘うエアスポーツ、何も作らないエアクッキング。すべてを身体だけで表現する達人。はたして彼は殺されたのだろうか。もしそうなら犯人の動機は。



タグ:SFマガジン
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『生まれ変わり』(ケン・リュウ:著、古沢嘉通・他:翻訳) [読書(SF)]

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 かかる高評価から、日本オリジナル作品集第三弾を編む要請が出、その結果が本書である。作品選択のポイントは、選択時の最新作「ビザンチン・エンパシー」(2018年6月)までに発表された膨大な作品のなかから、これはというものを選ぶのは当然として、多少のわかりにくさがあるため、従来、選択に逡巡していたものもあえて選んだ。
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新書版p.551


 『紙の動物園』『母の記憶に』に続くケン・リュウの日本オリジナル短篇集第三弾。新書版(早川書房)出版は2019年2月、Kindle版配信は2019年2月です。

 出版されるたびにSFまわりを越えて広く話題となるケン・リュウの短篇集。ちなみに既刊本の紹介はこちら。


  2017年09月06日の日記
  『母の記憶に』
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06

  2015年06月19日の日記
  『紙の動物園』
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-19



[収録作品]

『生まれ変わり』
『介護士』
『ランニング・シューズ』
『化学調味料ゴーレム』
『ホモ・フローレシエンシス』
『訪問者』
『悪疫』
『生きている本の起源に関する、短くて不確かだが本当の話』
『ペレの住民』
『揺り籠からの特報:隠遁者──マサチューセッツ海での四十八時間』
『七度の誕生日』
『数えられるもの』
『カルタゴの薔薇』
『神々は鎖に繋がれてはいない』
『神々は殺されはしない』
『神々は犬死にはしない』
『闇に響くこだま』
『ゴースト・デイズ』
『隠娘』
『ビザンチン・エンパシー』




『生まれ変わり』
――――
 ある意味で、わたしは伝染性があるのだろう。生まれ変わったとき、わたしと親しかった人々、わたしがやったことを知っている人々、彼らがわたしを知っていることがジョシュア・レノンのアイデンティティの一部を形成していた人々は、ポートを移植されねばならず、わたしの生まれ変わりの一部として、そうした記憶は削除された。わたしの犯罪は、それがどんなものであれ、彼らに感染したのだ。
 その彼らが何者なのか、わたしは知りすらしなかった。
――――
新書版p.24


 犯罪者の“全体”を裁くのではなく、犯罪につながった自我の一部を削除し、さらにその犯罪に関わる記憶(本人に加えて関係者全員の)を消すことで更正させる「生まれ変わり」技術。だが、起こしたことを「なかったことにする」ことが、本当に正しい対処なのだろうか。個人のアイデンティティの問題から、戦時下の非人道的行為に対する歴史修正(否認)主義まで、読者の倫理観をゆさぶる作品。


『化学調味料ゴーレム』
――――
「しかし、このわたしが汝にそうするようにと言っておるのだぞ! 神の命令だ」
「でもさ、神さまの決めた規則や戒律なのに、ただの気まぐれで適当な例外を作るわけにはいかないでしょ。そういう仕組みじゃないと思う」
「なぜだ? わたしは神だぞ」
「神さまが独裁者みたいにふるまってた段階は、とっくに過去のものだと思ってたけど」
 口論は一時間つづいた。レベッカの熱意は少しも冷めることがなかった。
――――
新書版p.89


 ユダヤ人の血をひく中国人である少女に、神が命じる。人類の危機を救えと。しかし神は気づいていなかった。中国の娘がどれほど強情で扱いにくい民であるかを。そもそも自分の不手際で起きた問題の解決を他人に命じることの正当性から、安息日に人類を救済する仕事をすることの是非まで。いちいち説得し、なだめるはめになった神の苦労は報われるのか。楽しいユーモア作品。


『ホモ・フローレシエンシス』
――――
 たとえどうあろうと、われわれの世界が彼らの存在を突き止めたとき、彼らの世界はなくなってしまう。われわれは、自分たちにこんなにも近くて、こんなにも異質な種と平和に共存できたことが歴史上一度もない。どこであれホモ・サピエンスがやってきたところでは、ほかのヒト種は消えてしまっている。
――――
新書版p.127


 インドネシアで発見された謎の歯。つい最近まで生きていたと考えられるその持ち主は、人類とは別に進化したヒト属だった。ついに彼らの居住地を発見したとき、研究者は深刻なジレンマに陥る。アマゾンで発見された未開民族、インドネシアで発見されたフローレス原人化石などのトピックから、人類学などの科学に内在しているある種の暴力性に焦点を当てる作品。


『訪問者』
――――
 それでも、異星の探査機の近くでは、誰もが礼儀正しくふるまおうとする傾向があった。笑うときはより大きく、話すときはより熱心になり、ゴミがあれば拾い、喧嘩はやめる。よく考えてみると、馬鹿げている。どうしたら宇宙人によい印象をあたえられるのか、ぼくたちは何も知らないのだ。
――――
新書版p.137


 謎の異星人が地球全域に送り込んできた無数の探査機。捕獲することも破壊することもできない探査機の存在に、人類は慣れていった。だが、探査機に「見られている」という意識は、微妙に人々の行動に影響を与える。国際的な人身売買問題に取り組む活動家が、この現象を利用して人々の意識を少しでも変えようと試みる。悲惨慣れして無関心におおわれた世界でマスコミが果たすべき役割を扱った作品。


『数えられるもの』
――――
 有限の人生には無限の瞬間がある。現在に留まり、順番に経験していかねばならないとだれが言うのか?
 過去は過去ではない。おなじ瞬間が何度も何度も経験され、毎回、なにか新しいものが加わるだろう。充分な時間があれば、空白が有理数で埋められるだろう。線が一枚の絵を完成するだろう。世界の辻褄が合う。
――――
新書版p.267


 母親の恋人から虐待されている幼い少年。だが彼には数学の才能があった。そして自分の人生を構成している各瞬間を、時系列順ではなく体験できることに気づく。なぜなら瞬間は無限に存在するが、それは加算無限(アレフゼロ)であり、したがって任意に定める順序数と一対一対応することが証明できるからだ。ベタなプロットを数学的裏付けのある特異な語り口で語ってみせる作品。


『神々は鎖に繋がれてはいない』
『神々は殺されはしない』
『神々は犬死にはしない』
――――
 人間以後(ポストヒューマン)、シンギュラリティ以前の、世界最高のコンピュータ・ハードウェアのスピードと威力をもって天才人間たちの認知能力と結びついた人工直観体――便利であり、画期的なものだ。彼らはわれわれの世界で言う神々のような存在で、その神々は天上で戦争を行っている。
――――
新書版p.345


 人間の優れた直感力をコンピュータ上に再現する。初期の「意識のアップロード」実験は思いがけない結果をもたらし、世界を恐るべき勢いで改変してゆく。ポストヒューマン誕生から完全なシンギュラリティに向かう移行プロセスを扱った三部作。言語モジュールの非効率性ゆえポストヒューマンたちが人間とのコミュニケーションに絵文字を使うという発想が印象的で、実際に絵文字が多用される作品。


『闇に響くこだま』
――――
 盲目は俺の強みなんだ。俺の武術の流派には、これまで目の見えない達人がたくさんいた。彼らは夜間の戦闘技術を磨き、目の代わりに耳を使ってきた。この壁を造っている石とその利用法は、昔の達人から代々伝わってきたものだ。
――――
新書版p.417


 清朝に対して反旗を翻した反逆者のリーダーは「飛翔する蝙蝠」と呼ばれていた。暗闇で敵兵の位置を確実に読み取り倒してゆく彼の驚異の武術を目にしたとき、語り手はその技、すなわち音響定位(エコーロケーション)が持つ可能性に気づく。清代を舞台とした奇想武侠小説。


『隠娘』
――――
 わたしの心を読んだかのように男は言った。「わたしは二晩経てばここにひとりでいる。約束は違えぬ」「これから死のうとしている人間の言葉にどんな価値がある?」わたしは言い返した。
「暗殺者の言葉とおなじ価値がある」男は言った。
 わたしはうなずくと飛び上がった。本拠の崖の蔦をのぼっていくときのようにすばやくわたしは垂れ下がっている綱をよじのぼり、屋根に開けた穴から姿を消した。
――――
新書版p.480


 あらゆる暗殺術を仕込まれた凄腕の女暗殺者。だがあるとき、一人の男を殺すことをためらい、逆に彼を守る決意をする。それは、自分よりも腕のたつ姉弟子たちと闘うことを意味していた。中国古典に題をとった翻案小説ですが、個人的にはこの原作、舒淇(スー・チー)が主演した映画『黒衣の刺客』(ホウ・シャオシェン監督)の印象が強く、とにかくスー・チー美し。


『ビザンチン・エンパシー』
――――
 だが、巨大NGOと外交政策シンクタンクからなるすでに確立された世界を、なんの価値もない無名の暗号通貨ネットワークで変えることができると本気で期待できるだろうか?
 それにもかかわらず、この仕事は正しい気がした。そしてそのことがそれに逆らう形で思いつけるどんな議論よりも価値があった。
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新書版p.524


 世界中で起きている悲惨な出来事に対して、集められた寄付金プールを効果的に配分するための組織体制。だが、政治的な判断から無視されることになった人々の悲劇は、誰が救うべきなのか。

 一人のプログラマーがブロックチェーン(ビットコインなどの暗号通貨の基礎技術)を利用して、人々の共感(エンパシー)を通貨として流通させることで寄付金プールの配分判断を自動的に下す非中央集権的なシステムを作り出し、それは世界最大の慈善基金プラットフォームへと成長してゆく。だが、不確実でプロパガンダに流されやすい大衆の共感なるもので巨額の寄付金が動くことが正しいことなのだろうか。立場の異なる二人の登場人物の対立を通じて、慈善や富の再分配が抱えている倫理的問題を掘り下げる作品。



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