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『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(ドニー・アイカー、安原和見:翻訳) [読書(オカルト)]

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 そうして著者はついに、ロシアへと旅立ってゆく。ネットの情報(ノイズ)で汚染された泥の山をかきわけ、60年前に学生たちがみたままの純白の雪原を掘り起こすために。それは真冬のウラル山脈という到達不能な「未踏」を巡る過酷な探検であると同時に、ネット社会の「圏外」へと旅する、知の探検でもあったのだ。そして現代もなお検索不能な「未踏」は、暴風吹き荒れる白い雪原の向こう側に、確かに存在していたのである。
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単行本p.351


 1959年、ウラル山脈で起きた奇怪な遭難事故。通称「ディアトロフ峠事件」。経験豊富な登山パーティの若者たちが、全員、テントを内側から切り裂いて極寒の雪原に飛び出し、確実な凍死に向かってためらうことなく走り続けた。いったい彼らは何から逃げていたのか。そして遺体の異常としかいいようのない状態を、どう解釈すればいいのか。この謎にとりつかれた米国人ドキュメンタリー映像制作者が真相を追ってロシアに飛び、ついに現場に立つ。零下30度、極寒の冬山、そこで著者が見たものとは。
 単行本(河出書房新社)出版は2018年8月、Kindle版配信は2019年1月です。


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 その異様な死に様はこの事件が今なお未解決事件とされ、人々の興味を惹きつける最大の理由でもある。この事件のように、一次情報が少なく、しかもセンセーショナルな出来事の場合、報道や記事そのものが、都市伝説の温床となる。(中略)そこで著者は当時の記録を綿密に調べ上げて、事件担当者の変遷から調査方法、その発見の様子まであぶりだし、曖昧な情報を排除している。つまりこの記録を読めば、ディアトロフ峠事件における基本的な事実、少なくとも「公開されている事実」のほとんどは俯瞰できると言っていいだろう。
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単行本p.350


 ディアトロフ峠事件を真正面から扱ったノンフィクションです。1959年にウラル山脈に向かった若者たちの旅程、遭難現場を調査した捜索隊の体験、そして著者自ら現場に向かうまでの道のりが、さすがドキュメンタリー映像制作者が書いただけあって、まるで再現ドラマのように展開してゆき、最後まで読者を飽きさせません。翻訳も手堅く、というかまずタイトルが素晴らしい。直訳すれば「死の山」となるところを、一文字変えるだけで不穏さが段増しに。


 噂や憶測を取り除いた事実関係が詳細に記されていますが、最大の読み所は著者のほとんど狂気に駆り立てられたような旅。現場を自分の目で見る、そのためだけに貯金を使い果たしてロシアに飛び、極寒の冬山に命がけで立ち向かうのです。


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 2010年11月、初めてユーリ・クンツェヴィッチと電話で話してから三か月、ディアトロフの悲劇について知ってから九か月で、私は初めてロシアの土を踏むことになった。理想的なタイミングとは言えなかった。恋人のジュリアが妊娠七か月で、私たちは親になることの喜びと興奮を一から味わっているところだったのだ。しかし、子供が生まれたあとでは、この事件に割く時間はほとんどなくなるのもわかっていた。
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単行本p.57


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 気温は零下30度近い。膝まで積もる雪を踏みしだいて、ディアトロフ峠に向かう。この真冬のさなか、ロシア人の仲間たちとともに、8時間にわたってウラル山脈北部をトレッキングしてきた。目的地に到達したいのは山々なのだが、足を前に出すのがいよいよむずかしくなってくる。視界は悪く、地平線も見えない。空も地面も乳白色のベールに覆われているようだ。(中略)ブーツのなかで右足の指が凍ってくっつきあっている。早くも切断の悪夢が目の前にちらつきはじめる。
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単行本p.19


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 二度にわたってロシアに長期の旅行をし、2万4000キロ以上も踏破してきた。幼い息子とその母親のもとを離れ、貯金も残らず使い果たしたのは、すべてここへ来るためだった。そしていま、旅の最終目的地にあと1、2キロのところまで迫っている。その目的地こそホラチャフリ、この地に昔から住むマンシ族の言葉で「死の山」だった。ホラチャフリの東斜面で起こった1959年の悲劇はあまりに有名で、全滅したトレッキング隊のリーダーの名をとって、その一帯はいまでは公式にディアトロフ峠と呼ばれている。
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単行本p.20


 いわゆる謎解き本ではないのですが、最後の方でこれまでにいくつも提唱された説について検証してゆきます。


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 この事件の謎は煎じ詰めればこの一点だ――雪崩のせいでないとしたら、いったいなにがあって、九人は安全なテントを棄てる気になったのだろうか。
(中略)
 これまでのところ、私の戦略はただひたすら消去法だった。しばしば引用されるシャーロック・ホームズの原則――「不可能を消去していけば、どんなに突拍子もなく見えたとしても、あとに残った可能性が真実のはずだ」――に似ていないこともない。
(中略)
 不可能をすべて消去していったら、あとになにも残らなかったときはどうしたらいいのだろう。私の憶えているかぎりでは、シャーロック・ホームズはそれについてはなにも言っていなかったと思う。
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単行本p.265、277、286


 こうして既存の説をすべて「相応の確信を持って」否定した著者は、自らの体験を元に新しい仮説を立てることになります。それは読んでのお楽しみ。



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『日本昭和トンデモ児童書大全』(中柳豪文) [読書(オカルト)]

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 本書は、著者を含めた当時の子どもたちの頭から離れないほどのショッキングな内容を掲載した、昭和の“トンデモ”な児童書を紹介したものだ。恐らく今の世の中では、この手のコンテンツを子ども向けに出版するのは非常に難しいだろう。しかし、当時は、心霊、UFO、UMA、超能力、ノストラダムスの大予言などなど、ショッキングというか、オカルト的な内容が、テレビや本でバンバン紹介される全盛期であった。
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 戦慄の四次元ミステリー、世界の怪奇画報、円盤写真大図鑑、モンスター大図鑑、恐怖の予言大全科、ふしぎ人間エスパー入門……。子供の頃にドキドキしながら読んで、衝撃的なイラストに震え上がり、夜眠れなくなった、あの児童書の数々が、今蘇る! 正直、別に蘇らせなくてもいいのではないかとも思える「昭和トンデモ児童書」を実に90冊以上も紹介してくれる一冊。もちろん、あのイラストやこのイラストも掲載。ムック(辰巳出版)出版は2018年10月です。


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 あの頃の子どもたち(僕たち)は心が、想像力がまだまだ自由で、好奇心の塊だった。目の前の事象に具体的にどう対処するか(ハウツー)ではなく、一つの絵や話からイマジネーションを膨らませ、未知のものや未来について考えることに夢中だった。その姿勢に厳しくも優しく伴走してくれたのが、これらトンデモ児童書だったのだと思う。
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 というわけで、現代ではまず出せない煽情的でショッキングで奇天烈なオカルト系児童書がずらりと。一瞬「懐かしい」と思うわけですが、次の瞬間には「怖い」「やばい」「見なきゃ良かった」という、幼い頃の気持ちまでそのまま蘇ってくるのには驚かされました。

 こういう本をむさぼるように読んだ子どもがどうなるかというと、それから半世紀が過ぎても、いまだにUFO同人誌に関わって「地球空洞説の歴史」みたいな原稿を書いてたりするわけです。子どもを駄目にする有害図書だ、と非難されたら反論は難しいのではないでしょうか(エビデンスは私)。

 ちなみに平成最後のUFO同人誌『UFO手帖3.0』は、11月25日(日)開催の第二十七回文学フリマ東京 ク-38「Spファイル友の会」で購入できます。


[目次]

3大レーベル大特集

 ドラゴンブックス
  『恐怖と怪奇の世界 吸血鬼百科』
  『食糧危機を生きぬくための 飢餓食入門』
  『地球の危機を生きぬくための 生き残り術入門』
  『きみも悪魔博士になれる 悪魔全書』
  『なぞと怪奇の世界をさぐる ミイラ大百科』
  『20世紀最後のなぞに挑戦する 四次元ミステリー』
  『幽霊のAからZまでわかる 日本幽霊百科』

 ジュニアチャンピオンコース
  『なぞ驚異 世界のなぞ世界のふしぎ』
  『絵ときこわい話 怪奇ミステリー』
  『驚異の記録 あの事件を追え』
  『絵ときSF もしもの世界』
  『なぞ神秘 世界の秘宝をさぐれ』
  『ぼく滅作戦 人間の敵ショッキング情報』
  『なぞ驚異 七つの世界の七不思議』
  『なぞ怪奇 超科学ミステリー』
  『絵とき21世紀 大予言! 未来をさぐる』
  『きみならどうする? ゆうれい屋敷の探検』
  『推理クイズ あなたは名探偵』

 ジャガーバックス
  『日本妖怪図鑑』
  『世界妖怪図鑑』
  『魔術妖術大図鑑』
  『なぞの怪獣大図鑑』
  『これが科学捜査だ』
  『世界の超能力者』
  『地獄大図鑑』
  『怪奇! 日本ミステリー図鑑』
  『恐怖! スパイ大作戦』
  『決戦! 日本連合艦隊』
  『日本の特攻兵器』
  『ドイツ機甲軍団』
  『陸上航空海上 自衛隊図鑑』
  『第三次世界大戦 戦う自衛隊』

記憶に残る人気レーベル
 なぜなに学習図鑑シリーズ
  『なぜなに からだのふしぎ』
  『なぜなに びっくり理科てじな』
  『なぜなに びっくり動物』
  『なぜなに 世界の大怪獣』
  『なぜなに 世界のふしぎ』
  『なぜなに 大昔の人間』
  『なぜなに びっくり世界一』

ユニコンブックス
  『科学捜査 科学捜査なんでも百科』
  『ミイラ ミイラ・なぞをさぐる』
  『怪奇 実話! 62の怪奇スリラー』
  『スパイ スパイ術てってい解剖』
  『大恐竜 恐竜ものしり博物館』
  『人体 人体びっくり解剖』

世界怪奇シリーズ
  『世界の怪奇画報』
  『妖怪大図鑑』
  『円盤写真大図鑑』
  『世界の恐怖画報』
  『世界のスリラー画報』

ひばり書房 初期ハードカバー
  『怪奇城大図鑑』
  『UFOの恐怖 円盤大図鑑』
  『こわい怪談画報』
  『謎と恐怖の大図鑑』
  『きみもできる 不思議な術』

フタミのなんでも大博士
  『モンスター大図鑑』
  『世界の幽霊大図鑑』
  『日本の幽霊大図鑑』
  『世界の七不思議大図鑑』
  『ドラキュラ大図鑑』

大全科シリーズ
  『怪奇大全科』
  『恐怖の予言大全科』
  『妖怪大全科』
  『ショック残酷大全科』

衝撃!! トラウマ!? 名タイトル27選
  『UFOの秘密』
  『空飛ぶ円盤発見!!』
  『驚異! 謎の自然怪大特集』
  『ネッシーは生きている』
  『ふしぎ人間エスパー入門』
  『超科学のなぞ エスパー大行進』
  『怪奇』
  『大推理 古代史のなぞ』
  『推理大作戦 世界のなぞと怪奇』
  『続・世界の怪奇ミステリー』
  『恐怖、ミステリー』
  『図解 大地震がくる! 』
  『SOS地球人 滅びゆく地球より』
  『日本あやうし! きみたち日本人に警告する!!』
  『日本は沈没する』
  『大異変! 地球SOS』
  『地球の最期X年』
  『世界の妖怪図鑑』
  『世界のモンスター』
  『図鑑 怪談・奇談』
  『恐怖! 幽霊スリラー』
  『わたしは幽霊を見た』
  『ソロモン王の魔法術』
  『悪魔王国の秘密』
  『怪奇大魔法』
  『探検大作戦 世界の秘宝』
  『ショック! 写真構成 人体の怪奇大百科』

コラム
 1.親も安心の健全系!? 図書館の2大定番シリーズ
 2.マニアならではの鑑賞法!? 1絵柄の違いを密かに愉しむ
 3.マニアならではの鑑賞法!? 2微笑ましい絵にほっこりする
 4.昭和トンデモ系!? グッズコレクション1
 5.昭和トンデモ系!? グッズコレクション2
 6.こんなところにもトンデモが!? 少し古い時代の書籍や雑誌の付録



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『何かが後をついてくる』(伊藤龍平) [読書(オカルト)]

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 闇が失われつつある現在こそ、五官に作用する、原初的で不安定な妖怪について考える必要がある。闇への畏れと詩的想像力とを取り戻すこと。それは人間の本能を守ることだと、私は思う。
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単行本p.23


 「何かが空を飛んでいる」目撃体験がUFOの原点だとすると、「何かが後をついてくる」感覚体験こそが妖怪の原点。名づけられ、視覚的イメージ(妖怪画)が与えられる以前の、妖怪生成のもととなる感覚体験に焦点を当て、日本と台湾における妖怪のあり方を分析してゆく一冊。単行本(青弓社)出版は2018年8月です。


 ネットで発生する怪異譚をテーマにした『ネットロア』、台湾における怪談の流布をテーマとした『現代台湾鬼譚』の著者による、妖怪についての研究考察をまとめた最新作です。台湾の南台科技大学で伝承文学を専攻している教員ということで、日本の妖怪だけでなく、台湾における妖怪(および妖怪ブーム)も大きく取り上げられています。ちなみに旧作の紹介はこちら。


  2016年05月16日の日記
  『ネットロア ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-16

  2014年02月06日の日記
  『現代台湾鬼譚 海を渡った「学校の怪談」』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-02-06


 今作では、名づけられる以前に存在したはずの感覚体験に焦点を当て、五官が生み出す「妖怪感覚」と口承文芸の関係を探ってゆきます。


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 私は、「妖怪」とは、身体感覚の違和感のメタファーだと思っている。その違和感が個人を超えて人々のなかで共有されたとき、「妖怪」として認知される。少なくとも、民間伝承の妖怪たちの多くは、そうして生まれたのだろう。

 夜道を歩いているときに背後に違和感を覚えたことがある人は多いだろうが、しかし、それは怪しいという感覚だけで――仮に「妖怪感覚」と呼んでおく――「妖怪」とはいえない。その感覚が広く共有されて、そこに「ビシャガツク」といった名前がつけられたとき、「妖怪感覚」は「妖怪」になる。重要なのは「共感」と「名づけ」である。(中略)こうした例から導き出されるのは、身体感覚に根ざした言葉から「妖怪」の生成過程と伝承動態を考えること、つまり、口承文芸研究の方面からのアプローチが重要だということである。
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単行本p.14、17


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 大事にしたいのは、名づけ以前の妖怪感覚である。中原中也の詩論を引用するなら「名辞以前」に、つまり「ビシャガツク」と名づけられる以前に、どのような感覚がそこにあったのか。背後に迫る何かが、妖怪なのか幽霊なのか、人なのか動物なのか、悪漢なのかただの通りすがりなのか、あるいは、単に気のせいなのか。それが認識されて解釈されるまでの刹那に、どのような心の動きがあったかが重要なのである。中原は「芸術というのは名辞以前の世界の作業」と述べているが、「妖怪」を生み出す源も、そうした詩的想像力である。「妖怪」は人々に共有されることによって生まれるが、体験そのものは個別的なものである。そのあとに「話す」「書く」という個人的行為があり、相手に伝えられ、共有されなければならない。広義の文学的営為といえるだろう。
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単行本p.21


 全体は序章を含む10章から構成されています。個人的には、第2章および第6章から第9章で取り上げられる台湾の妖怪と妖怪事情に感銘を受けました。


[目次]

序 妖怪の詩的想像力
第1章 花子さんの声、ザシキワラシの足音
第2章 文字なき郷の妖怪たち
第3章 「化物問答」の文字妖怪
第4章 口承妖怪ダンジュウロウ
第5章 狐は人を化かしたか
第6章 台湾の妖怪「モシナ」の話
第7章 東アジアの小鬼たち
第8章 「妖怪図鑑」談義
第9章 妖怪が生まれる島


『第1章 花子さんの声、ザシキワラシの足音』
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 視覚優位の時代の、すなわち文字言語の文化に属する人にとって、妖怪が「見える」というのは、各種テクストに表れたザシキワラシを構成する個々の要素を行動面も含めて統合し、頭のなかでモザイク状に組み合わせて一つのイメージを形作ることである。それはむろん、必ずしも文字を通してというわけではない。文字言語によって作られた精神では、思考のパラダイムがそうなっているのだ。聴覚や触覚に関するザシキワラシの行動さえも、視覚のバイアスを通して読み取られる。
 一方、聴覚優位の時代の、音声文化での「妖怪」は、五官を総動員して感知されるものだった。深夜に、横臥している身体に対して現れたザシキワラシは、主に、聴覚・触覚・視覚を中心にした全体として捉えられるのである。
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単行本p.46

 まず聴覚および触覚で感知される妖怪として「トイレの花子さん」と「ザシキワラシ」を取り上げ、視覚優位の時代における妖怪のイメージについて見直してゆきます。


『第2章 文字なき郷の妖怪たち』
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 実際、私が烏来で知り合ったキンキさん(中国名は謝金枝。2004年当時60代)という女性は文字を知らなかった。かろうじて自分の名が読み書きできる程度である。しかし、それでいて話し言葉としては、タイヤル語、日本語、台湾語、北京語の四つを自在に使いこなすのである。
 こうした事実をふまえなければ、「言葉が話せなくなる」状態の深刻さ、「(話し)言葉を奪う」妖怪の、真の怖さを知ることはできない。文字がない以上、話ができなくなることは、コミュニケーションの手段をすべて失うことを意味するのである。
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単行本p.56

 台湾北部の烏来郷における聞きとり調査を通じて、タイヤル族に伝わる「ウトゥフ」の位置付けと、無文字社会における妖怪のあり方を考えます。


『第3章 「化物問答」の文字妖怪』
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 まとめると、「化物問答」という昔話には文字が内包されていて、そこに登場する妖怪たちは、無文字文化と文字文化のあわいに生まれたといえる。まったく文字がない社会にも、文字が行き渡った社会にも、生まれえない妖怪たちであり、話型であった。
 そのように考えると、識字率が低い国や地域では、いまでもこの種の妖怪たちが跳梁しているのかもしれない。また、異文化折衝の際の言葉のすれ違いで、新たな妖怪が生まれているかもしれないのだ。
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単行本p.91

 実態と乖離し、暴走した言葉(文字)から生み出される妖怪たち。「化物問答」に登場する奇怪な妖怪たちを通じて、識字文化と妖怪の関係を探ります。


『第4章 口承妖怪ダンジュウロウ』
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「妖怪が話される場」とは、メタ的にいうならば「妖怪が生まれる場」でもある。その「場」は時代、地域や年齢、性別、階層などによって異なる。この点が今後の妖怪研究、ひいては口承文芸研究のうえで必要な視点になってくると思われる。
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単行本p.99

 他者に話されることによって発生する妖怪。妖怪ダンジュウロウを通じて、口承文芸としての妖怪のあり方を考えます。


『第5章 狐は人を化かしたか』
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 同じ現象(山中彷徨)を、同じ解釈装置(狐狸狢)で解釈すれば、話が似てくるのは当然である。「迷わし神」型の妖狐譚が異常に多いのは、話そのものの伝承のほかに、右に述べたような思考様式の伝承によって新たな話が生まれ続けていることが理由といえる。
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単行本p.125

 研究者にも手がつけられないほど報告例が多い「キツネ/タヌキに化かされた話」。不可解な体験に対する解釈装置としての狐狸狢の仕組みを分析してゆきます。


『第6章 台湾の妖怪「モシナ」の話』
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 いまの台湾は、妖怪革命の最中なのだろう。今後、モシナ像がどのように転換していくのか、それが台湾の人の精神世界にどのような影響を及ぼし、台湾の妖怪研究にどのような航跡を残していくのか、興味深いところである。
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単行本p.163

 台湾では大半の人が知っているが、日本ではあまり知られていない妖怪「モシナ(魔神仔)」と、台湾で現在進行中の妖怪革命についてレポートします。


『第7章 東アジアの小鬼たち』
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 妖怪に限らず、近代植民地政策による伝承の流入と流出、ならびに植民地統治終了後の当該地域の人々による伝承の扱い(異文化の流入を認めるか、それを排して「原」文化を復権させるか)は、デリケートな問題ながら注意を払う必要がある。ナショナルアイデンティティーの高まりのなかで、トケビは民族の象徴になりつつある。
 台湾のモシナと韓国のトケビを比較していて個人的にもっとも興味を引かれるのは、この点である。現代韓国のトケビにみられる民族主義的イデオロギーが、台湾のモシナにはない。
 今後、トケビが、朝鮮民族の象徴たりうる存在に成長するかは、まだわからない。さまざまな思惑を包み込みながら、いまはサブカルチャーのなかで、トケビは飛び回っている。
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単行本p.188

 台湾のモシナ、韓国のトケビを比較し、東アジア圏における妖怪のあり方を俯瞰します。そして、植民地支配による伝承の流入と解放後の対応という問題に踏み込んでゆきます。


『第8章 「妖怪図鑑」談義』
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 水木の死に前後して、相次いで興味深い妖怪図鑑が刊行された。一つは『琉球妖怪大図鑑』上・下、もう一つは台湾で刊行された『台湾妖怪図鑑』、ともに刊行は2015年である。台湾ではその後、妖怪図鑑の決定版というべき、『妖怪台湾』(2017年)も刊行された。
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単行本p.196

 台湾で発行された『台湾妖怪図鑑』『妖怪台湾』を通して、妖怪のビジュアル化とその意味について考えてゆきます。


『第9章 妖怪が生まれる島』
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 結局のところ、通俗的な「妖怪」という概念自体が日本的なものなのである。これは『台湾妖怪図鑑』や『琉球妖怪大図鑑』にもいえることだが、日本的な「妖怪」に近いものを、沖縄や台湾の文化のなかから選び出し、「妖怪」と見なしていく傾向がある。
 ここには微妙な問題が絡んでいる。通俗的「妖怪」が伝統を装い、地域アイデンティティーと関わるものであることは先に述べたが、それでは「台湾の伝統文化とは何か」ということが問題になる。これは、中国との差別化をはかる台湾人にとって重要なテーマである。
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単行本p.239

 台湾の「渓頭妖怪村」探訪記や、『台湾妖怪図鑑』『妖怪台湾』の内容紹介を通じて、台湾における妖怪文化について語ります。



タグ:台湾
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『オカルト・クロニクル』(松閣オルタ) [読書(オカルト)]

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 デタラメや誇張、デッチ上げや捏造、それらを排した――懐疑的視点を乗り越えた先にある「本物」の探求にこそ、信奉者はタフなロマンを持ってほしい。信奉者の敵は懐疑論ではなく安易な否定論なのだから。
 そのために超能力者はシノゴノ言わず検証に協力してほしいし、予言者は地震が起こる前に予言してほしいし、地球人とコンタクトしたい宇宙人はホワイトハウスの庭にこそ着陸すべきであるし、UMAはいかにも贋物くさい足跡以外の証拠を残す努力をしてほしいし、幽霊は税金を払ってほしい。
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単行本p.5


 「関心はあるものの懐疑派になるには知性・知識が足りず、信奉派になるには純粋さや信仰心が足りない、でもカヤの外は嫌だから仲間に入れて欲しい――」(単行本p.5)
 オカルト現象や謎めいた事件の数々をひたすら調査する。そこから何かが見えてくることを期待して……。膨大な情報とクセになる文章で人気のオカルト・怪事件サイト「オカルト・クロニクル」、待望の書籍化。単行本(洋泉社)出版は2018年7月です。


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 こう、自説に不利な証拠であっても、調査結果をキチンと開示する姿勢は調査者として敬意を表したい。大事なのは真相であって、調査者のプライドではない。オカルト界隈では事実を伏せたり隠匿することによってミステリーを永続ないし増加――ひどいモノでは捏造までして、少しでも多く本を売ろうとする手合いが少なくないが、どのみち時代的にも界隈的にも本は売れないご時世なのだから、つまらない悪あがきは止めるべきなのである。
 また敵を作りそうな冗談はともかく、
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単行本p.32


 というわけで、懐疑派を乗り越え、信奉派の先をゆく、ぼくらのオカクロが単行本になりました。めでたいことです。ちなみにサイトへのリンクと単行本目次はこちらです。

  「オカルト・クロニクル」
  https://okakuro.org/

単行本[目次]

はじめに――信奉者はタフなロマンを!信奉者の敵は懐疑論ではなく安易な否定論だ!
ディアトロフ峠事件――ロシア史上最も不可解な謎の事件
熊取町七名連続怪死事件――日本版『ツイン・ピークス』の謎
青年は「虹」に何を見たのか――地震予知に捧げた椋平廣吉の人生
セイラム魔女裁判――はたして、村に魔女は本当にいたのか……
坪野鉱泉肝試し失踪事件――ふたりの少女はどこへ消えたのか……
「迷宮」――平成の怪事件・井の頭バラバラ殺人事件
「人間の足首」が次々と漂着する“怪”――セイリッシュ海の未解決ミステリー事件
謎多き未解決事件――京都長岡ワラビ採り殺人事件
ミイラ漂流船――良栄丸の怪奇
科学が襲ってくる――フィラデルフィア実験の狂気
岐阜県富加町「幽霊団地」――住民を襲った「ポルターガイスト」の正体
八丈島火葬場七体人骨事件――未解決に終わった“密室のミステリー”
獣人ヒバゴン――昭和の闇に消えた幻の怪物
ファティマに降りた聖母――7万人の見た奇蹟
赤城神社「主婦失踪」事件――「神隠し」のごとく、ひとりの女性が、消えた


 目次を見て「すでに読んだことのある記事ばかり」とお嘆きの方も、ぜひ購入してあらためて読んでみて下さい。その迫力たるや圧巻です。ぞわぞわします。たとえ気に入らなくても、著者がひたすら恐れているらしい「低評価レビュー」を投下するのは止めておきましょうね。


――――
 記事のほとんどがすでにサイトで公開されたもの、あるいはムック本に掲載されたものであるから、一部の読者諸兄は新しい記事がないとして不満に感じるかもしれない。感じるだけに飽き足らず、ネットで低評価のレビューを書いて溜飲を下げようと画策するかもしれない。残念ながら著者にソレを止めることはできない。できるならやるかもしれないけれど、やり方もわからない。こうなると低評価をつけた方には呪詛によってしかるべき報いを受けてもらうしかないが、仮に呪詛が成功しても、このような行為は懐疑派からしこたま懐疑され、下った「報い」が偶然の産物だと看破されてしまう。
――――
単行本p.411



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『怪談稼業 侵蝕』(松村進吉) [読書(オカルト)]

――――
 取材はしたけれど「地味すぎる」「どこかで聞いたことがある」といった理由で使えなかった体験談が、手帖の中に次々と、はち切れんばかりに溜まってゆく。
 これが全部本当のことだとするなら、ただごとではない。
 この世界はどうかしている。
 異常である。
(中略)
 そして、あえて云うなら――そんな異常な話がごろごろ転がっているこの現実そのものは、確かに存在している。
 体験談の中身の解釈はともかく、それを語る人自体は実在する。次から次へと、まるで誰かに派遣された刺客のように、尽きることなく私の前に立ち現れる。
 もしかすると私が書かなければならないのはそういった、私を変容させようと目論むこの世界、そのものなのかも知れない――。
――――
文庫版p.8


 怪異を体験した人に取材して、怪談実話を書く。世界観が汚染されてゆく。自分の身の回りでも当然のように「そういったこと」が起きるようになる。日常が浸食される。怖くて怖くて書けなくなる。あり得ないような体験談を「実話」として発表することに対する不安と罪悪感。取材相手とのトラブル。うさん臭い霊能力者との腐れ縁。

 「――これは、まともな稼業ではない」

 日本のジョン・A・キールこと松村進吉さんが開拓した怪談実話私小説シリーズ『怪談稼業』その第二弾。文庫版(KADOKAWA)出版は2018年7月、Kindle版配信は2018年7月です。


 まったく新しい怪談実話を創り出せ。師匠より厳命を受けて七転八倒する自身の姿を赤裸々に描いた、恐怖と笑いと感動の怪談実話私小説『セメント怪談稼業』の続編です。ちなみに前作の紹介はこちら。

  2015年04月09日の日記
  『セメント怪談稼業』(松村進吉)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09

 続編である本作では、12年も続けてきた怪談稼業の〈過酷さ〉がひしひしと伝わってくる(別の意味で)怖い話が大盛り。


――――
 怪談を集めれば集めるほど、恐怖に弱くなっていった。
 折角取材をしても、怖くて筆が進まないのだ。
 誰かの体験談を文章に起こすためには、それを頭の中で、いわば再現ドラマのように組み立て直して再生する必要がある。その話のどこが一番恐ろしく、肝になる部分なのかを見極めて、強調しなければならない。
 それが、怖くてできない。
 つまり、聞くだけ聞いておきながらもう思い出したくはないという有様で、お前は一体何がしたいんだと自問自答し、呆れ、苛立っては頭を搔きむしる毎日――。
――――
文庫版p.5


――――
 何もそこまで、大げさな、などと苦笑されるかも知れないが私に云わせればそれは結局、怪異を他人事だと思っているからだ。自分の身に降りかかった場合のことを、現実的に突き詰めては考えないからだ。
 勿論私だって、こんな因果な商売に腰まで浸かってしまう前は、怖い怖いと云いながらも怪談話を読んだり聞いたりするのを愉しみにしており、何なら一度くらい幽霊とやらを見てみたいものだとすら思っていた。
(中略)
 私もそこでやめておけば、今でもみんなと一緒に、楽しく怖がっていられたのだ。
 無用な危機感や焦燥に駆られることなく、障りや祟りに怯える必要もなくいられたのだ。一時の原稿料に眼が眩んだばかりに、私は。
――――
文庫版p.7、12


 ただ怖いだけでなく、危険な稼業。どのように危険か、「素人」である配偶者にこんこんと諭すものの、てんで分かってもらえない……。


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「お前達は迂闊にも今日、UFOだの宇宙人だのという異常現象の実在を確信している人物に会い、その人の世界観に汚染されて帰って来た――大変な失態ですよこれは。(中略)とにかくそういう、別のレイヤーに住んでる人間と接触すると、自分もそちら側に引っ張り込まれてしまう危険が生じるんだ。わかるか。つまり彼らの世界観に蝕まれると、自分の周りでも当然のように、そういったことが起きるようになるんだよ。これは真剣な話。向こう側の人間というのは、俺達にとってはもう、現実改変能力を持っているに等しい存在と云っていい。自分に近づく人の現実を、認識を、解釈を、自らの世界観で上書きしてしまう……」
(中略)
「イイバさんは俺達にとって、現実改変者だ。ならば俺は、それを文章化することで再改変し、その力に抵抗するしかないじゃないか。発表した作品は現実に跳ね返り、俺達を守ってくれる。〈実話〉にはその力がある、わかるだろう」
 私の熱弁に、家内はゆっくりと首を振った。
「……わからない。ごめん、正直さっきからあなたが何を云ってるのか、私には全然わからない」
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文庫版p.148、149


 まっとうで健全な配偶者。怪異など関心のない十匹の飼猫。家族のおかげで正気が保たれているという安心感があります。それから、怪談業界に対するぶっちゃけも多くて。


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 毎月毎月新しい怪談本が各社から出版され、この国はもう怪談まみれだ。
 活字離れが進む中、それでも「実話」とさえ銘打っておけば一定数の読者は買ってくれるものだから、それに甘えてどんどん「実話」が量産され、書き手も増える。
 私もそんな風潮の中で生み出された人間のひとりに他ならない。
 くだらない――。
 この世に「実話」などあるものか。
(中略)
 やはりこれは欺瞞だ。
 私は読者を騙して金を得ている。
 書くのが苦しい理由は、おそらくそこだろう。
 本当にこれを「実話」として発表してよいのかという、不安――その裏側にあるのは結局、怪異への怯え、幽霊だの何だのの実在を感じることに、怯えているから。
 書けば書くほど外堀を埋められ、追い詰められてゆくように感じるから。
 諦念めいた無気力が筋肉の合間に溶け込み、私の指先を動かなくさせる。
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文庫版p.247


 一方で、霊感少女の人生を狂わせてしまった悔悟のエピソード、映画を撮ろうとして次々と災難が降りかかるエピソードなど、著者の誠実さというかモラリストぶりも印象的。こういう自分を律する力の強さも、怪談稼業を続けてゆくための大切な資質なんだろうな、と思います。


 全体としては私小説なのですが、作中作のように怪異譚が埋め込まれていて、そちらも興味深く読むことが出来ます。個人的に最も気に入ったのは、「さまよえる電柱の件」。


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 私がこの数年来、個人的に追い続けているのはもっと不可解で、説明不能な、文字通り夜の闇に「現れては消える」謎。
 知る人ぞ知る正体不明の怪現象。
 私はそれを、「さまよえる電柱」と呼んでいる。
(中略)
 現在までに伝わる限り都合六件の、奇妙な電柱の話がこの市にはある。
 そして何を隠そうこの私自身、今から二十年近くも前になるが、それを目撃している。
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文庫版p.158



タグ:松村進吉
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